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東京高等裁判所 昭和57年(ラ)136号 決定

抗告人 布瀬公三

主文

原決定を取消す。

本件を東京地方裁判所八王子支部に差戻す。

理由

一  本件抗告の趣旨は、主文同旨であり、その抗告理由は、別紙のとおりである。

二  抗告人は、有限会社いづみ商会(以下「いづみ商会」という。)の社員兼取締役として、同会社の一時代表取締役の職務を行うべき者の選任を求めて本件申立に及んだものである。ところで、記録によれば、いづみ商会の取締役は、布瀬清治外四名(定款によれば、定員は一名以上)であり、右清治が有限会社法(以下「法」という。)二七条三項前段による代表取締役に定められていたが、同人は、昭和五四年一一月一〇日死亡したことが認められる。そして、このように定款又は社員総会の決議によつて、有限会社の代表取締役が特定された場合には、法二七条一・二項の適用がなく、他の取締役は、代表権を有せず、右特定代表取締役が死亡したときでも、定款の変更又は社員総会の決議がない限り、他の取締役が当然に会社を代表することになるものではないというべきであるから、この場合において、必要ありと認めるときは、商法二六一条三項・二五八条二項を準用して、利害関係人は、裁判所に対し一時代表取締役の職務を行うべき者の選任を請求することができると解するのが相当である。

そうとすれば、右と異なる見解のもとに、本件申立を却下した原決定は、失当であるから、これを取消し、本件については、さらに審理を尽くすため原審に差戻すのが相当と認めて、主文のとおり決定する。

(裁判官 枇杷田泰助 佐藤邦夫 尾方滋)

抗告理由

一、原決定は、次の理由により申立を却下している。

「有限会社では取締役が数人存する場合には各自が会社を代表するのが原則であるから(有限会社法二七条一項)、取締役会の決議で代表取締役を定めることを必須とする(商法二六一条一項)株式会社における一時代表取締役の職務を行うべき者の選任に関する商法二六一条三項を準用するのは相当でないと考える。」

しかし、右の解釈は以下の理由により失当である。

二、確かに有限会社法二七条一項は、「取締役は会社を代表す」とし、同二項では「取締役数人あるときは各自会社を代表す」と規定している。

ところが、同三項ではさらに「前項の規定は定款・・・を以て会社を代表すべき取締役を定(む)・・・ることを妨げず」と規定している。

本件事案は、右にいう定款で代表取締役を定め、その唯一の代表者たる代表取締役が欠けた(死亡)場合である。

三、原審の判断は、有限会社においては代表取締役が欠けた場合は各自代表にもどることを前提としたものである。しかし、この理でいくと当該有限会社は何ら定款の変更がないままに、あるときは代表取締役のみに会社代表権があり、又あるときは各自代表に戻り、又代表取締役を選任すれば又そのものだけ代表権があることになる。

このようなことは、当該会社と取引をする第三者に対してきわめて法的安定性を害することになる。

四、又、これを前記引用の条文の規定に照らしてみると、同条三項の規定の趣旨は、同項で規定する方法で代表取締役を定めた場合は、当該有限会社については同二項の規定を適用しないということである。このことは、その文言からして明らかである。

五、これを本件事案の具体的事実について述べれば、以下のとおりである。

すなわち、疎明資料から明らかなとおり本件では取締役たる布瀬雄三から同じく取締役たる布瀬公三(申立人)に対して、出資口数の帰属等について訴が提起されて係属しているのである。このような状態において「各自代表」を理由にしてそれぞれが代表権を行使した場合、著しい混乱が生じることはあらためて指摘するまでもない。

六、よつて、本件につき商法二六一条三項を準用することは、法理上も又実際上も必要であり、かつ右法条を準用して代行者を選任することが、事案の解決にとつて最も有効な手段であると考えるものである。(なお、その余の理由については原審昭和五六年一二月三日付準備書面の主張を援用する。)

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